2023年5月に戴冠式を執り行ったチャールズ国王。

英王室御用達のジュエリーブランドとは、英国の君主から「ロイヤル・ワラント」を授与された宝飾店のことです。

君主から任命されたジュエラーは、王室からの依頼により、戴冠式など特別なイベントのためのジュエリーを制作してきました。

王室御用達は歴代の君主によって任命されますが、エリザベス女王が2022年に崩御したため、2024年にはチャールズ国王が新たなロイヤル・ワラントを授与しました。

イギリス在住の王室ファンとしては見逃せないニュース! と思い、さっそく最新情報の調査を行いました♪

こちらでは、王室御用達とロイヤル・ワラントの意味や歴史を辿るとともに、チャールズ国王が君主として初めて任命した、英王室御用達ジュエリーブランド10社をご紹介していきます。

英国の王室御用達とは

英王室を象徴するバッキンガム宮殿。
Royal Collection Trust/Instagram

王室御用達とは、王室に商品やサービスを定期的に提供する企業や人物のこと。その証明として、「ロイヤル・ワラント(Royal Warrant)」と呼ばれる勅許状が授与されます。

英国の企業である必要はなく、個人の職人からグローバルな企業まで、あらゆる分野の人々や会社にロイヤル・ワラントが与えられています。

王室に対して無償のサービスは行われず、厳密な商業目的で取引されています。

ロイヤル・ワラントとは

「Elliot Fitzpatrick」に授与された、エリザベス女王からのロイヤル・ワラント。
Elliot-Fitzpatrick/Instagram

ロイヤル・ワラントは、王室御用達に任命された個人や企業に対して付与される、王室紋章使用許可証です。

例えば、王室御用達である企業の製品には、「By Appointment to HM The Queen(女王陛下による任命)」との文字を添えたエリザベス女王の紋章がプリントされていました。

この紋章は女王の御用達として、ロイヤル・ワラントを保有することを証明しています。

ロイヤル・ワラントは1回につき最長5年間付与され、有効期限の前年に更新の再審査が行われるそうです。

ロイヤル・ワラントの歴史


英王室でのロイヤル・ワラントの付与を決定するのは、英国の君主です。

王室御用達の歴史は古く、12世紀にはイングランド王ヘンリー2世が織物会社に王室勅許を授与したことが始まりだとか。

その後何世紀にもわたり、歴代の君主は職人や商人を王室御用達に任命してきたといいます。

18世紀には王室御用達の商人たちが王室紋章を掲げるようになり、1840年には「Royal Warrant Holders Association(王室御用達保持者協会)」が設立されます。

同協会は王室御用達に関する管理を支援しており、現在はロイヤル・ワラント保持者全員に会員資格が与えられています。

チャールズ国王夫妻が新たな王室御用達を任命

2024年6月、バッキンガム宮殿のバルコニーに登場したチャールズ国王とカミラ王妃。
The Royal Family/Instagram

エリザベス女王が2022年9月に崩御すると、長男チャールズ3世が国王に即位し、妻カミラ夫人が王妃となりました。

そのためエリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達だった企業に対する、大幅な再審査が行われることになったのです。

そして2024年5月と12月、チャールズ国王とカミラ王妃が新統治下で初となるロイヤル・ワラントを授与しました。

チャールズ国王とカミラ王妃の御用達に認定された企業は、それぞれの紋章の使用が許可されます。

2025年からは、チャールズ国王とカミラ王妃に加え、ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃も御用達を任命し、ロイヤル・ワラントを授与することができるようになりました。

2025年版の王室御用達ジュエラー

前置きが長くなりましたが、王室御用達とロイヤル・ワラントの意味についてはお分かりいただけたでしょうか?

こちらの項目では、チャールズ国王とカミラ王妃によって選ばれた、2025年版の王室御用達ジュエラー10社についてお伝えしていきます。

Benny

王室御用達ジュエラー「Benny」のダイヤモンドとゴールドのリング
Benny/Instagram

1952年に金銀細工師のジェラルド・ベニー氏がゴールドとシルバーウェアを制作する「ベニー・パートナーシップ」を設立。「ベニー・バーク」と呼ばれる特徴的なテクスチャーの表面仕上げを開発します。

やがてジェラルド氏は王室御用達に任命され、4つのロイヤル・ワラントを保有する最初の英国人職人となりました。

1990年代にはジェラルド氏の息子で金銀細工師のサイモン・ベニー氏が「ベニー・パートナーシップ」を引き継ぐとともに、ロイヤル・ワラントも継承しました。

2000年代になると、サイモン氏が高級ジュエリーを制作する「ハウス・オブ・ベニー」を設立。

現在も、「ベニー・パートナーシップ」の特徴的な表面仕上げとエナメル加工から着想を得た、比類ないジュエリーを制作しています。


Bentley&Skinner(Bond Street Jewellers)Ltd

「Bentley&Skinner」が取り扱うダイヤモンドのティアラ。
Bentley & Skinner/Instagram

ファインアンティーク・ジュエリーや、カール・ファベルジェの作品、銀製品などを販売する宝飾店です。

1881年に設立した「Skinner&Co」はヴィクトリア女王の在位中、王族へのジュエリーサプライヤーに任命されました。

1934年にはロンドンのボンドストリートに「Bentley&Co」がオープン。

1990年代には両社が合併して「Bentley & Skinner」となり、メイフェアに店舗を開設しました。

エリザベス女王とチャールズ皇太子は、1980年代に「Skinner&Co」にロイヤル・ワラントを授与しています。

Cartier Ltd

創業以来、世界の王室御用達に任命されてきた「カルティエ」。
Cartier Official/Instagram

1847年、ルイ・フランソワ・カルティエがフランスのパリで創業した宝石商です。

メゾン3代目の1人であるピエール・カルティエは、エドワード7世の戴冠式が執り行われる1902年にロンドン支店をオープン。

「カルティエ」のパトロンであったエドワード7世は、戴冠式のために27個のティアラの制作を依頼し、同社を王室御用達に任命しました。

カルティエは世界十数か国の王室御用達となり、エドワード7世が「王の宝石商、宝石商の王」と評したのは有名な話。

1936年に国王ジョージ6世が妻エリザベス皇后に贈った「ヘイロー・ティアラ」は、メゾンの有名な作品のひとつです。

ティアラはエリザベス女王に引き継がれ、キャサリン妃はウィリアム王子とのロイヤル・ウェディングで身に着けました。

Elliot-Fitzpatrick Ltd

「Elliot Fitzpatrick」が製造したダイヤモンドのネックレス。
Elliot Fitzpatrick/Instagram

1986年にロンドンの宝石街ハットンガーデンで、銀研磨職人のレッグ・エリオット氏とアラン・フィッツパトリック氏が共同設立した、貴金属研磨とメッキ加工業者です。

熟練職人の手作業による金銀製品やジュエリーの研磨やメッキ加工、製造、修理などを行っており、最高の仕上がりを実現しています。

2008年からは英王室からの依頼を請け負っており、2016年にエリザベス女王の御用達としてロイヤル・ワラントが授与されました。

Fiona Rae

美しいエナメル加工が施された「Fiona Rae」のジュエリー。
Fiona Rae Jewellery/Instagram

英国のジュエリーデザイナー、フィオナ・レイ氏が1990年に設立したジュエリーブランドです。

レイ氏は金細工師とエナメル職人として高く評価されており、ジュエリーのデザイン・制作をすべて手作業で行っています。

昆虫や植物など自然をモチーフにしたジュエリーは、繊細なディテールと深い色彩による比類ない美しさ。

2001年にチャールズ皇太子の御用達として、ロイヤル・ワラントが授与されました。

Garrard&Co.Ltd

「Garrard」によるサファイアとクラスターセッティングのリング。
Garrard/Instagram

1735年に銀細工の巨匠ジョージ・ウィックス氏がロンドンで設立した、英国の老舗宝飾店です。

290年という長い歴史の中、ジュエリー史に残る名作を世に送り出してきました。

世界最大のダイヤモンド原石「カリナン」からカットされたダイヤモンドは、熟練職人の最高技術でクラウン・ジュエルの王笏や王冠にセッティングされました。

1840年にアルバート王子が花嫁となるヴィクトリア女王に贈ったブローチや、ダイアナ妃からキャサリン妃へと受け継がれた婚約指輪、エリザベス女王の即位65周年記念ブローチは、最高品質のサファイアと特徴的なクラスターセッティングを用いたものでした。

それ以来、サファイアとクラスターセッティングは「ガラード」の代名詞として定着しています。

1843年にはヴィクトリア女王により、英国初の王室御用達ジュエラーに任命されました。

Grant Macdonald Silversmith Ltd

「Grant Macdonald」が制作したシルバーブローチの数々。
Grant Macdonald/Instagram

銀細工師のグラント・マクドナルド氏が1960年代にロンドンで「Silverform」というアトリエをオープンしたのが始まりです。

革新的なデザインと卓越した職人技術による作品は高く評価され、メイフェアやボンドストリートの高級小売店向けにオーダーメイドの銀製品を制作。後に世界中に市場を拡大します。

同社の銀製品は一流職人による手作業で、伝統的な技法と最新技術を融合したもの。素材が持つ美しさを活かした、タイムレスなデザインです。

2003年にはグラント氏の息子ジョージ氏が事業に参加。最高品質の金銀製品や食器、美術品、役職バッジ、カフリンクなどを制作しています。

グラント氏は2015年にチャールズ皇太子御用達の金細工師・銀細工師として、ロイヤル・ワラントが授与されました。

Hamilton & Inches Ltd

「Hamilton & Inches」によるスコットランド産ゴールドを使用したリング。
Hamilton & Inches/Instagram

1866年にロバート・カーク・インチズ氏と叔父ジェームズ・ハミルトン氏がスコットランドの首都エディンバラに設立した、ファインジュエリーと高級腕時計、銀製品を取り扱う高級宝飾店です。

創業以来維持するジュエリーと銀製品のアトリエでは、銀細工師や宝石職人、時計技術者などによる質の高いサービスを提供。

スコットランド産のゴールドを用いたジュエリーコレクション「ボタニカル」を展開するほか、「ロレックス」のアフターサービスや修理も行っています。

1893年にはヴィクトリア女王からロイヤル・ワラントを授与され、スコットランドの宮殿での時計職人・管理者に任命されます。

2010年にはエリザベス女王御用達の銀細工師と時計専門家として、ロイヤル・ワラントが授与されました。


Mappin & Webb

「Mappin & Webb」が展開するダイヤモンドジュエリーコレクション。
Mappin & Webb/Instagram

1775年、ジョナサン・マッピン氏が英シェフィールド地方で銀食器のアトリエをオープンして以来、250年以上の歴史を築いてきたジュエリーと銀製品のブランドです。

美しい銀製品が制作され、世界中の王室から委託や御用達の任命を受けます。

その卓越した職人技術と優れた品質は英国を代表するものとなり、精密な高級ジュエリーや時計、ガラス製品などを世に送り出してきました。

1897年には銀細工師としてヴィクトリア女王の御用達となり、ロイヤル・ワラントを授与されました。

後に、エリザベス女王とチャールズ皇太子からもロイヤル・ワラントを授与されています。


Wartski


アンティークディーラー「Wartski」の店舗。
Wartski/Instagram

1865年に英ノース・ウェールズ地方で、モリス・ウォルツスキー氏が創業した会社です。

アンティークジュエリーや銀製品、美術品のほか、カール・ファベルジェの作品を取り扱うことで知られています。

家族で代々事業が引き継がれ、1911年にはロンドンのニューボンドストリートに支店をオープン。

2005年にはチャールズ皇太子とカミラ夫人の結婚指輪を制作。2011年にはエリザベス女王がウィリアム王子に贈ったウェールズ産ゴールドを使用し、王子とキャサリン妃の結婚指輪を制作しました。

同社はこれまでにエリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達として、ロイヤル・ワラントが授与されています。


最後に

こちらでご紹介した王室御用達ジュエラーは、すべてチャールズ国王の御用達に任命された企業ですが、最後の「Wartski」のみカミラ王妃も任命しています。

ロイヤル・ワラントを与えられたジュエラーは、熟練職人による最高品質のジュエリーを王室に供給してきました。

王室の公式サイトによると、現在のところロイヤル・ワラントの保有者は全部で800社以上にもなるそうですよ。