眩しい初夏の太陽が、今日もフィレンツェの街を黄金色に染め上げている。

石畳の道には、観光客と地元民の賑やかな話し声が響き、カフェからは挽きたてのコーヒーと焼きたてのパンの甘い香りが漂い、夏の到来を告げていた。

ジュエリーデザイナーの葵木夏奈(あおき・かな)は、工房での仕事を終え、ヴァザーリの回廊を抜けてヴェッキオ橋へと向かっていた。

フィレンツェの工房で働き始めて早一年。言葉の壁や文化の違いに戸惑いながらも、一流の職人たちに囲まれ、日々技術を磨いていた。

今日締め切りだったデザイン案も無事提出し、少しばかり開放的な気分で、街の喧騒に身を任せる。

貴金属店や宝石店が軒を連ねるヴェッキオ橋は、夏奈のお気に入りの場所の一つ。

橋の両側に並ぶジュエリーショップのショーウィンドウには、ため息が出るほど美しい作品が飾られており、彼女の心をときめかせていた。

イタリアならではの個性的なジュエリーをひとつひとつじっくりと眺めながら、次のデザインのインスピレーションを高めていく。

その時、彼女の視界に一人の青年が飛び込んできた。夕陽を浴びて輝く黒髪、吸い込まれるような深いブラウンの瞳。イタリア人とは違う、どこか落ち着いた雰囲気をまとっている。

彼はまるで、夏奈がデザインするジュエリーのように、洗練された輝きを放っていた。ふと、親近感にも似た感情が湧き上がる。

彼は橋の欄干に寄りかかり、アルノ川の流れを静かに見つめていた。日本人だろうか。そんな思いが頭をよぎる。その瞬間、二人の視線が絡み合った。彼は一瞬驚いたような表情を見せた後、優しく微笑んだ。

この偶然の出会いが、夏奈の人生を大きく変えることになるとは、まだ知る由もなかった。

異国の地で出会った、同じ祖国を持つ青年との、甘く切ない純愛の物語が、まさに幕を開けようとしていた。

次回:「第1章:運命の出会い」へと続く。

著者プロフィール

ソーニョ杏奈(あんな)

東京都在住。
イタリア留学でその文化と芸術に深く魅了され、現在は趣味で小説を執筆。
こよなく愛するジュエリーの輝きと、心に残るイタリアの美しい情景を、物語を通して表現することに喜びを感じている。
本作『フィレンツェのひと夏のジュエル』では、留学時代の思い出の地フィレンツェを舞台に、きらめく宝石と運命が織りなす物語を紡ぐ。