「メメントモリ」と呼ばれるアンティーク・ジュエリーをご存じでしょうか。
中世ヨーロッパで流行したメメントモリ・ジュエリーは、スカルを代表とするモチーフが使用されたことで知られています。
メメント・モリには、当時の人々の生活を反映した、生きることへの大切なメッセージが込められていました。
こちらでは、スタイルを変えながらも現代へと引き継がれてきた、メメントモリ・ジュエリーの意味や歴史などについてお伝えしていきます。
メメントモリ・ジュエリーとは
「メメントモリ(Memento mori)」とは、ラテン語で「死ぬことを忘れるな」という意味を持ちます。
メメントモリを表現するものは、スカル(骸骨)が代表的ですが、ロウソクや砂時計、果物や花などをモチーフにした絵画も制作されました。
ヨーロッパでは16世紀から18世紀にかけて、死と生の大切さを認識させるために作られた、メメントモリ・ジュエリーが流行しました。
メメントモリ・ジュエリーには、主にスカルやスケルトン、棺桶などのモチーフが使用されています。
モチーフは、ゴールド素材の上にエナメルで描かれるのが主流でした。
さらに、ラテン語やフランス語、英語などで、宗教や死生観、追憶といった思いを表現する言葉が添えられています。
これらのメッセージは所有する人だけが見るように、ジュエリーの外側や内側などに密かな場所に記されました。
メメントモリ・ジュエリーの歴史
16世紀の頃は医学が発達していなかったこともあり、死亡率が高く、人々の寿命は現代よりもずっと短いものでした。
そのため当時の人々にとって、“死”は人生の大きな部分を占めるものでした。メメント・モリ・ジュエリーは、「死はそう遠くないところにある。だから、しっかりと生きよう」とのメッセージを込めた、戒めのようなものでした。
「人生は一度きりだから、今日を大切に生きよう」という思いは、特に宗教的な意味合いが強かったそうです。
特に16世紀には、故人を偲ぶ思いを刻んだ「モーニング(喪章)リング」の遺贈が増えたそうです。指輪の詳細については遺言書に具体的に記されることもあり、指輪の制作費や喪主のリストなどが添えられました。
17世紀になると、スカルや棺桶のモチーフに加え、愛する人が亡くなった日付けや名前のイニシャルを刻むようになります。また、亡くなった人の髪の毛をジュエリーに入れることも多くなりました。
18世紀には、追悼する人の名前を刻んだものが多くなります。物語のモチーフが用いられるなど、より複雑なデザインへと変化していきます。
メメントモリ・ジュエリーの種類
メメントモリ・ジュエリーの代表的なものに、スカルをモチーフにしたシグネットリングがあります。
シグネットリングとは、大きな台座に紋章やイニシャルを刻んだもので、古くから印章として使用されてきました。
メメントモリ・ジュエリーでは、金の台座にエナメル加工を施し、周囲にルビーなどの宝石を配するなど、凝ったデザインのものが作られていました。
ペンダントは棺桶をモチーフにしたロケットで、蓋を開けるとスケルトンが入っているものがあります。
愛する人を偲ぶ「メモリアル・ジュエリー」へとスタイルが変わると、ジュエリーには故人を讃える刻印や碑文が施されたり、小さな記念品や絵画を入れるためのコンパートメントが隠されているものもありました。
また、故人の髪の毛をブローチやロケットの裏側に入れる「ヘア・ジュエリー」も流行しました。