宝石は冷たい

宝石鑑定士でなくとも、そこにある宝石が本物か偽物かを見分ける方法があるといわれています。専門的なルーペや機材などを持ち合わせていない場合でも、すぐに試すことができるそうです。


それは、石の冷たさを感じること。

本物の宝石は指で触れると冷たく感じますが、プラスチックやガラスなどは触れている内に生暖かくなってきます。

指で触ってみて今ひとつ冷たさが分からなければ、唇に当ててみると良いそうです。唇では、宝石のヒンヤリとした冷たさをより感じることが出来るといいます。

宝石が本物か否かを確かめるには、キスをすれば良いということ。冷たさを感じれば本物。真実の宝石はヒンヤリと冷たい物質ということなのですね。

神秘の力

ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド、パール。遠い昔から愛された宝石たちは、歴史の分だけ人々を幸福にし、時には不幸の渦に巻き込んできました。

宝石の原石は地中の奥深くで何千何億年という間、高圧と高熱にじっと耐えながら生成されます。

独特の美しいカラーを発色するのは、結晶に不純物が混入したり自然の放射能を浴びるなど、複雑な要因が絡み合った結果です。

この世にまたとない硬さと光沢を放つ、自然界が生んだ物質。

永い間苦しみに耐え、外部からさまざまな影響を受けたからこそ誕生する、稀で美しい輝きなのです。


歴史とともに輝く


紀元前の時代から、宝石は世界中の人々を魅了してきました。

エメラルド鉱山に自らの名を付けたクレオパトラ。数多くの豪華なジュエリーを所有したマリー・アントワネット。宝飾品を勝利の象徴としたナポレオン。

ある時は栄光をもたらし、ある時は人生をも破壊させてきました。

宝石に翻弄された人々はその魔性に取りつかれ、多くの財産や命までをも犠牲にしてきたのです。

古代インドやローマでは神に捧げる神聖な石と言われ、彫像や神職者のみが宝石を身に着けることを許されていました。太古の人々は宝石を聖なるものとして敬い、大切に崇めてきたのです。

古代エジプトでは王族のみが高貴な宝石を身に着け、その地位と財力を誇りました。その後のヨーロッパでも宝石は王侯貴族に愛され、最も価値のある宝石は国王に捧げられています。王冠や王笏に美しく装飾された宝石は、王や女王とともに国の象徴となり、歴史とともに華々しく輝いてきました。

そんな宝石も、長い歴史とともに戦争や紛争に巻き込まれ、紛失や略奪に合ってしまいます。

ですが不思議なことに、争いに巻き込まれて傷つくのは宝石を取り巻く人々でした。当の宝石はというと、その姿を全く変えることなく、美しく妖しい輝きを放ち続けているだけなのです。

唇に触れると氷のように冷たい。魔性の力を持つ神秘的な輝き。

神のみに捧げると言われる宝石に触れてしまった罪とは?

ホープ・ダイヤモンド





出展元:https://www.smithsonianmag.com/arts-culture/


インドの古都で女神の彫像の眼に嵌められていた、ブルーの巨大なダイヤモンドです。ある日盗難に遭うのですが、何らかのルートを経て17世紀にフランス人宝石ディーラーのタヴェルニエが購入します。その後フランス国王ルイ14世に売却されました。

不幸な出来事が始まったのは、この直後からでした。

タヴェルニエはロシアの草原で狼の群れに襲われて死亡。ルイ14世は天然痘で死亡します。ルイ15世がダイヤモンドを受け継ぎますが、フランス革命の紛争に紛れて盗難に遭い、国王一家は幽閉されてしまいます。

ダイヤモンドはロンドンに流れ着き、英国人銀行家ヘンリー・フィリップ・ホープの手に渡りました。彼の死後、後継の家族がダイヤモンドの所有権を争い、裁判で勝ち取った親族は後に離婚と破産という不幸に見舞われています。

このほかにも所有した人々が強盗に襲われたり、自殺や謎の死を遂げるなど、数々の謎めいた伝説が残されています。

一時期所有したカルティエとハリー・ウインストンは中々売却先が見つからず、ウインストン社はついに米スミソニアン博物館に寄贈しました。

現在は同博物館の所有物として展示されています。


ブラック・オルロフ


インドで19世紀初頭に発見されたと伝わる黒いダイヤモンドで、最初は195カラットもあったと言われています。ホープと同じくインドのヒンドゥー教の女神の彫像の眼に嵌められており、「ブラフマーの眼」と呼ばれていました。

ある日旅をしていた僧侶がこのダイヤモンドを略奪したことから、呪いが始まります。

1932年にダイヤモンドディーラーのJWパリスという人物が買い取り、アメリカに持ち込みますが、直後に彼はニューヨークの高層ビルから飛び降り自殺を図ってしまいます。

その後黒いダイヤモンドはロシアの王妃ナディア・オルロフの手に渡りました。ロシア革命の最中、ローマに亡命した王妃はイタリアの宝石商と結婚。しかしある日突然、王妃までもが投身自殺を図ってしまったのです。

その後ブラック・オルロフは67.5カラットの大きさにカットされました。売却を繰り返された後、現在は匿名の人物が所有しているそうです。

美しいからこそ生まれる伝説

宝石の伝説はギリシャ神話やローマ神話でも語られており、ダイヤモンドにまつわる伝説もほとんどが逸話や都市伝説のようなものです。

だけどどうしても、その不思議な輝きを見てしまうと、まことしやかな伝説も信じられずにはいられません。あまりの美しさに誰もが翻弄され、ついつい理性を失ってしまいそうにになるほどの魅力を持っているからでしょう。

宝石を目の前にすると欲望にかられ、どうしても手に入れようとして所有権を争ったり、大金をはたいてまで独り占めしようとしてしまう。

何が起ころうと宝石は美しく輝き続けます。冷ややかな光沢を放ち、何事もなかったかのように、無邪気な姿で残酷に微笑み続けているのです。


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